放射線生体影響に関する物理学、疫学、生物学の認識文化の比較分析

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研究者・専門家へのインタビュー(永宮先生)

永宮正治允先生へのインタビュー 4/6

福島の原発事故

b:アメリカのスリーマイルアイランドは実際たいしたこと起こらなかったんですよね。私はたいしたものだと思いますけどね。それで面白かったのは、福島の事故で、地震と津波があった上で、よく被害がこの程度で済んだなと言うジャーナリストもいるんですよ。

n:何もしなかったらもっと大変なことになっていたでしょうね。

b:その話はよく聞きますね。イギリスの有名な反原発のジャーナリストは、あれだけの地震や津波が起こってもあの程度で済むのは、原発はたいしたものだと、意見を変えたそうですね。

n:いろいろ社会問題もありますよね。

b:まあいろいろ不備はあったにせよ、あれで食い止めたのはすごいという見方もできるんですよね。それで、福島の行政の方にこの話をすると、「いやぁ、実は津波対策は事前にしていたんですけどね、あのときにもう一段階頑張っていたらな」と言って忸怩たる思いがあるといっておられました。

n:江戸時代におこった津波で、どういう効果があるのかという研究があったんですね。僕は東海村のあたりをよく調べたんですが、防波堤のあるところの方が被害が大きいんですよ。なぜかというと、防波堤は一次的な波はある程度食い止めるのですが、一次波で防波堤の中にたまった水は、防波堤があるためにかえって捌けにくいという効果もあります。そこで、二次的な波が来ると、それと元々溜まっていた水と重なって、防波堤のあるところだけが大きな被害になる、ということです。図をお見せします。

b:そのシュミレーションはおもしろいですね。それは被害のあとにわかったんですか?

n:いや、事前にわかっていましたね。

b:え、それ誰が予言したのですか?

n:いや、どこかの専門家でしょうね。

b:そうですか。面白いですね。やっぱり科学はすごいですね。これがそのシミュレーションですね。

江戸時代の地震(1677年延宝房総沖地震)と同規模の地震が現代で起こった場合の津波シュミレーション動画

日立市日立港付近(最大遡上高:11.3m)

ひたちなか市阿字ヶ浦海岸付近(最大遡上高:8.8m)

東海村新川河口付近(最大遡上高:6.6m)

 

b:私は、女川と福島を比べるべきだと言っているんです。面白いことに、女川は副社長が理系の技術者なんですよね。東電はまあ官僚組織ですから、結局文系なんですね。女川の対策は、引き潮まで思考が至っていたんですね。大きいプールを作っておいて水をそこに溜めて、水がなくならないようにしたんですね。引き潮で全部水がなくなってしまう事が多いですからね。だからやっぱりね、技術者を会社がもっと大切にしなければいけないのではないかなと私は思うんですよね。
これは噂なんでわからないですけど、東電も福島の発電機を上へ上げていたらしいんですよ、そしたら環境省が「それはみっともないからどこかに隠せ」と言ったらしいんですよ。技術者はそれに反対したらしいんですけど、結局言われたとおりに地下に持って行ったという話ですね。どこまで本当なのか調べたいなと思っているんですけどね。

n:その話は伺っております。ただ、加速器でトラブルがあったときは、設計した人が駆けつけるわけですよ。運転している人は行かないんです。そこが原発と加速器の違いかなと思います。

b:そうなんですか。でも運転している人のほうが分かることもあるんじゃないんですか?

n:それはあるかもですね。でも事象としてはわかるかもしれないけども、原因まではわからないんですね。だから、加速器の修理には必ず技術者が行くんですよ。福島の問題点は運転する人しか行かなかったことも原因ですね。

b:そうなんですね。技術者はなぜ来なかったんですか?

n:それはわからない。人数が足りなかったのかもしれないし、まあ東電は運転会社だからね。

b:まあでもそれはね、原子力をやっている人は応用だから別だと思っているんですけど、3.11の後、シンポジウムをやるとね、「湯川先生はなんで辞めたんですか?もっと分かる人がいれば防げたのではないか」とすぐ言われるわけですよ。それでほんとにそうだったのかなと思って、技術者と一緒に研究会をしたんですよ。そしたらやっぱり、福島はマーク1で一番最初の原子炉ですよね。まあいろいろ問題はあったけれども、第二機、第三機となるにつれて、日本の技術者はものすごく技術改善しているんですよ。結局、電力会社と技術者のいる三菱重工とかの関係が上手くいっていなかった気がしますね。技術者も頑張っていたことがわかりましたね。
そらそうですよね。しかしいろんな説があって、もともと上しかできなかったのを、下の原子炉はアメリカの指示だとかね。

n:僕も福島第一はアメリカ製で、アメリカの要請で地盤を削ったと聞いています。 

b:まあ起こってしまったことは仕方ない部分はありますよね。

n:そうですね。悪い部分だけを見るのではなくて、あれだけで食い止めたという部分も、評価しないとまずい気がしますね。なんか科学技術というのはそんなに馬鹿にするものじゃないと思うんですよ。それなりに。
まあやっぱり、日本の会社は技術者を大切にしなあかんという教訓は心にとめておかなければいけないですね。

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