研究者・専門家へのインタビュー(和田先生)
和田昭允先生へのインタビュー 後編 4/5
レフリーと学会の体質
b:和田先生は、確か、論文をリジェクトされたことで、その反論をどこかに書かれたことがあったことを、お聞きしたことがあるような気がするのですが?
w:あ、あれでしょ、え~、どっかにあるかな。
b:あれ~、面白いなぁと思ってちょっと、取り上げたいんですが。
w:え~っと・・どこに書いたかな?
b:ともかく、その話で、その元の論文のレフェリーの主張は載ってなかったように思うんですけど。いや、知りたいのは、学会のカルチャーというか体質が、その学会に論文を投稿してみたときに、結構分かるのではないかと。
w:そうです、結局何を言ったかというと、どこに書いたかなぁ。
b:どこで見たかなぁ、ネイチャーじゃないんですねぇ。
w:ネイチャーじゃないんですねぇ。
b:ネイチャーは、なかなか先生は気に入られておられるようですから・・・ハッハッハ
w:そうなんですよ。
b:それを、どっかに記録はありますよね。
w:もちろんあります。え~っとね、ちょっと探せば出てくるんだと思うんだけども、結局、何言ったかというと、この論文は、なんってたっけな。
b:ちょっと違う雑誌に出されたんですか?
w:えぇ、レビューオブサイエンティフィックインスツルメンツって言うんです。
b:ほぉ~。
w:あ、その論文のリストが、あ、そうか、あれはレフェリーとのやり取りだから論文には。
b:論文にはないですね。
w:論文にはないんですよね。送ります。
b:あ、ありがとうございます、はい。
本ページ最後にレフリーとのやりとりに関する資料を掲載
w:DNAの自動化設計についての提案の話だったのですが、レフェリーから、「この機械は、人間程は上手く解析できない」と言ったんです。で、結局、僕が反論したのは「このレフェリーが言っていることは、自動車が出来た頃に、この機械は馬のように声を発せないと、言っているに等しい」と・・・・。
b:なるほど、でも、そのレフェリーに拒否された言う話しは書いてなかったかと。
w:いや、ケチを付けられたのです。その、レフェリーとのやり取りの原文がありますから、それコピーして送ります。
b:ありがとうございます、いや、それで、レフェリーとのやり取りというのは、結構異分野が何を考えているかということを具体的に示していて、面白いのですね。私が初めて、交通流の話を論文にしたときも、いろいろ常識から外れたことを言っているので、いろいろといわれました。
というのは、渋滞が形成されるのは、ある意味の相転移、つまり磁石でないものが磁石になるといった現象、自発磁化の現象に似ている、そう思って、これを数理モデルを作って説明したものでした。実は、それまでの交通流の主流は、渋滞領域と自由走行領域で。別の理論を組み立てていたのです。自由走行相から渋滞相にどう転移するかを、動的に解明するモデルがなかったんです。
w:あ!そうですか!?へぇ~。
b:面白いでしょ?
w:面白いですなぁ、そりゃあ。
b:当初、日本でも、渋滞の原因についての研究はありましたが、それは、トンネルの入り口とか、原因のある渋滞、ボトルネックについての研究が主流でした。でも、原因のない渋滞もあるのです。自然渋滞なんて言っていましたが、よく怒るではないか、そう思って、物理の視点で取り組み始めたのです。それは、実は、南部理論が明らかにして「自発的対称性の破れ」の理論です。これは、1つずつ見たら好き勝手に動いている多体系が、その構成粒子の間の相互作用を入れると、振る舞いが違ってくるという自然な考え方です。例えば投票行動でも、好きに1人ずつあ考えているのと、友達どうしてで議論している状態とでは、だんだん人の意見に左右されて意見が固まってくる、そういうことのために、投票してみたら、片方の候補が圧倒的に当選するなんてことありますよね。流行現象も多数決ですからね。
で、まぁ、今までの交通理論を塗り替えて統一的に理解するという方向を打ち出したわけです。そしたら、3人レフェリーついたんです。「我々は、30年以上努力してきたことを否定するのか」「今までのモデルでも補正項をこれだけ入れたら渋滞が起こるよ」とかいろいろ言われました。ま、新参者が何をゆうてるみたいな感じもあったのでしょうね。その1つに・・・。
w:よくレフェリーが言うやつですね、うん。
b:でも、あの、その3人もやはり相当なベテランですから聞くべき内容もたくさんありました。「この論文は理論だけで、現との突合せがない」という意見は、正当でした。そうして、その後、現象論もやりました。フェリーが3人というのも、ちょっとびっくりでした。普通、2人だと思うんですけど。これは、今も大事に残しています。
w:や、そういうのは取っといてねぇ、やっぱり。
b:どっかでみんなに知らせたいですね。
w:え、それはねぇ、若い人を元気づけますから。
b:そうですねぇ。
w:僕は、さっきから言ってるけど、若い人を元気づけることは、ほんとに大事だと思います。
b:なるほど、新しいことやるときには、こういうこともあるけれども、結局は、その後ね、我々のモデルを使って、ボッシュ研究所で(ドイツの、ベンツなどが作っている研究所)、実験してくれたんですよ。
w:あ、そうですか、へぇ~。
b:それでねぇ、「お前たちのモデルは、実験したらよくあっているよ」と手紙が来ました。
w:へぇ~、素晴らしい。
b:そしたら、バァ~ッとヨーロッパで有名になって・・・
w:それはすばらしい。
b:変な話ですけど、この論文の引用数が、私たちの物理の仕事の中では最も誇りに思っている「隠れた対称性」というレビューになって、フィジックスレポートに出たのですが、それよりも引用数が超えてるんですよ。
w:いや、それは、そうでちゃんと知らない我々の論文を読んでくれたのですから。そりゃあ、えらいです。
b:でも、最初の論文出すのも苦労しました。最終的に、フィジカルレビューというアメリカ物理学会の雑誌に出たのです。だから、結局、その分野の論文には載らなかったんです。
w:いや~、それはもう、新しいことをやると、大体そういう経緯になりますよね。
b:ですので、レフリーとのやり取りを集めると面白いなぁと思うんです。先生のも、是非、欲しいなと。こういうレフリーとのやり取り集みたいなサイトが、どこかにあるようにいっておられましたか?
w:いえ、そんなものはないのでは?
b:あ、そうですか、それ作ったら面白いと思うんですが。要するに、レフェリーにどうやって断られたか、そして、結局どうしたかという。新しい分野に挑戦するときの経験ですね。
w:物理学会くらいでそういう討論会やりませんかね~。
b:やるかなぁ?ハッハッハ
w:是非ねぇ、物理学会でねぇ。
b:面白いですねぇ~。
w:レフェリーとのケンカ。
b:レフェリーとのケンカをした思い、経験を・・・。
w:経験をいくつもねぇ。
b:経験からの教訓、みたいなんで、いいですねぇ、これやりましょうか?ハッハッハ
w:是非やって下さい。
b:そのとき、和田先生、ぜひ先生の経験を紹介して下さい。面白いですね。
w:いや、若い人を元気づけると思いますよ。
b:そうですねぇ、それに、異分野交流って、これからますます必要になってきますよね。
w:そうそう、異分野交流。
b:つまり、異分野の人がこれをどう判断するか?そのたくさんの事例があるはずですね、この論文、私らのところに適しませんなどというのも・・・。最近の論文では、too mathematical といわれましたね。
w:too mathematicalってのは、よく分からないなぁ~。どういう意味なのかなぁ。
b:しかも、学部で解ける程度の微分方程式ですよ?微分を入れただけでダメなんですよ。
w:なるほど、困ったものですねぇ~。
b:すから、異分野で何に価値を置いているかいうので、固定概念を外れた説に対して、どう評価すべきか、という、そのあたりが1つの鍵かも知れませんね。
DNA解析に関するレフリーとのやりとり
DNA解析に関するレフリーとのやりとり 原文