放射線生体影響に関する物理学、疫学、生物学の認識文化の比較分析

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研究者・専門家へのインタビュー(和田先生)

和田昭允先生へのインタビュー 後編 3/5

生物物理学会の誕生

w:そうです。生物物理学会が出来たのは1958年じゃなかったかな、いや、ちょっと、怪しいですけど、たぶんその頃です。

日本生物物理学会は1960年12月10日に設立され、初代会長は小谷正雄氏でした。1962年5月には、大阪の日生研修所で第1回学術講演会(日本生物物理学会年会)が開催され、 一般講演50件、特別講演4件が3日間にわたり2つの会場で行われました。
 本学会は IUPAB(International Union of Pure and Applied Biophysics)に加盟しており、3年毎に開かれる国際生物物理学会議には代表を送ると共に、会員も積極的に参加しています。(日本生物物理学会の歴史と活動 より)

b:で、その生物物理学会にはもちろん、大沢先生も?

w:大沢さんが、原動力になって、それに寺本さんとかね。小谷・大沢、それから寺本、その辺位では、私なんかはそれをむというのは大きいですね。
大きいです、こりゃぁ大きいです。どういう風に大きいかといいますとね、やっぱりね、若い人に決心させるんですね、これが大きいんですよ。

b:るほど、チョコチョコとやってたんじゃ、なかなか分かりませんもんねぇ。

w:えぇ、で、ですから、そこに入ることによって若い人が・・・

b:発表の機会もでき・・・

w:発表の機会もあり、自分を納得させるのですよね。これが大きいですね。だから、それを言い換えるならば、学会は、若い人を大事にしなきゃいけないのです。

b:なるほどねぇ~。そういう意味では、代々続いているプロジェクト研究の組織が、ず~っと続いて、ベテランの先生の会がよくありますが。権威がついているので、若い人が、なんというのか、参入できない雰囲気があるんじゃないかと・・・

w:そうですねぇ。

b:まぁ、上も偉いから、で、ずぅ~っと伝統守ってやってこられたのですから。

w:僕は小谷先生や大沢先生が偉かったと思う。はっきり覚えているのは、一番最初の頃だったですけれども、小谷先生が、「今日は、集まりの中じゃあ和田さんが一番お若いと思うけれども、意見を言って下さい」とかね、誘うんですよね、そうやって、若い人を励ます、まあ、なんで私がね、色々やって生物物理の立ち上げにもかかわったか・・・やっぱりねぇ、こういう励ましが大切です。そういう雰囲気が化学にはなかったですねぇ~。

b:それで思い出しましたが、私は教養部から法学部に所属替えになったのですが、そこで、法学部の学会というのは、ポストについている人しか質問できないんだそうです。

w:えぇ~っ!?

b:ビックリしましたよ、私。質問もできないってどういうこと!?って、思いました。

w:どういうことなんですかねぇ、どこで結び付くんですかねぇ?それが・・・

b:法学部は、ものすごいハイエラルキーの世界なんですよ。まぁ、あの、京大の法学部もそんな感じで、まぁ、なかなか女が入れなかったとこなんですけどね。

w:あぁ、まぁ、東大の法学部もそうですけどねぇ~、そうですか。

b:ビックリしますよ、え~!?学会で?

w:就職してないと一人前でないと、一人前でない奴は質問するなと!ハッハッハ。

b:ビックリしましたよ、私。えぇ~っ!?って。この、ハイエラルキーがあるという法学部の雰囲気はずっとありました。そういう世界では、学問は、どうして発展するのかなと思いました。

w:そうですねぇ。

b:面白かったのは、愛大のときのことです。朝よく電車でご一緒になる大塚仁先生、どうも、刑法では高名な先生らしいんですが、名大の定年後、来られた先生なんですが、あんまり偉いから、教授会にも出なくてよかったらしいです。でてくれって言いにくかったのかもしれません。愛知大学は郊外にあるので、みんな車で通う先生が多かったのですが、いつも電車で通っておられました。で、いつも熱心に本を読んでおられました。「先生、いつも本を読んでおられますね」といったら、「僕はもうあと少ない人生、まだいっぱい読みたい本があり、時間がもったいないですからね」といわれ、「どういう本を読んでおられるのですか?なんか鎌倉時代のことをカニが本みたいですが?」ときいたら、死生観、というか、死ということに対しての評価が変わったのは鎌倉時代だと。それまでは死体は神聖なものだったが死体は魂の抜けたもので価値がないものという風になったそうです。「ほんとに法をやるには、例えば臓器移植についてどう考えるかは、歴史的な価値観と関係して決まっている。そういう死生観がどう変化していったかということもきちんと調べた上で、法が成り立つのだ」といわれました。

w:わかりますねぇ。

b:そのあとが面白いのです。それで、「日本には法がないんです。あるのは、法解釈だけなんです」っていわれたのです。なるほど、法科学と法解釈は違うのだと・・。

w:まさにそうです、法解釈ですね。

b:で、法学部の先生に、「大塚先生がこんなこと言ってられましたよ」って言ったら、「え?あの先生と話ししたんですか?」ってみんなびっくりしておられました。「なんで先生、名古屋にずっとおられたのに、電車で来てはるんですか?」って聞いたら、「僕は、若い時代、研究の時間が惜しくて、車の免許取っている暇はありませんでした」って。それで、電車で通っておられたのですね。法学部の先生、そんなに偉い先生なんだったら、もっと一緒に議論したらいいのにとよく思いました。

w:法学部っていうのはね、まぁ、ほんとに・・・

b:ものすごいハイエラルキーの世界ですよ。

w:それは、法解釈だったらそうでしょうねぇ。解釈と学問とをどう切り分けるのか、ここらあたりも、興味ある課題ですね。

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